コラム

日本一美味しい寿司屋「千成鮨」のアルバイトの思い出、店のバイクで事故を起こした時に若旦那から言われた一言

東京は大田区北馬込に、 「日本一美味しい」 お寿司屋さんがあります。

都営三田線の馬込駅から歩いて5分 ほどのところにある寿司屋です。 名前を千成鮨といいます。

北海道のお寿司も美味です。 九州のお寿司も美味です。 でも、私の中では千成鮨の美味しさに かなう寿司屋はありません。

大学1年の時、私はこの寿司屋で バイトしていました。

迷惑をかけ続けた日々

バイトの動機は、400ccのオートバイが どうしても欲しかったからです。 中型免許取得のための教習所代と、 オートバイ代をためるための お金をためていた私にとっては、 お金がもらえて、 バイクにも乗れる配達の仕事は、 この上ないアルバイトでした。

自分なりに一所懸命働いたつもりです。 でも、方向音痴でダンドリが悪く、 世間知らずなところが災いして、 店の旦那には相当迷惑をかけました。

かかってきた配達依頼の内容を 聞き間違えるのは日常茶飯事、 すし酢をつくるための 砂糖と酢の調合料を間違えて、 何十キロもの調味料をムダにして しまったり、 配達予定のお寿司を持ったまま迷子になって、 あまりに遅いのでお客さんからクレームが来て、 結局あらたに寿司を握って別のバイトが届けたり、 手伝いに行っているのか、 手間をかけにいっているのか分からないぐらい、 たくさんの迷惑をかけました。 もしあの時店が赤字を出していたとしたら、 その原因は間違いなく私だったと思います。

ところが、 失敗をしでかすたびに叱られるのは、 私ではないのです。 クレームを受けたり、旦那から叱られるのは、 若旦那だったり、長年つとめている 社員さんだったりするのです。

お叱りの電話をかけてきた お客さんに向かって、電話越しに、 何度も何度も頭を下げている 若旦那を見るたびに、申し訳なくて しかたがありませんでした。

 

ついにやらかした!

雪がチラつくある冬の日曜日のこと。 その日は、いつもに増して 忙しい日でした。

3軒分の配達をして店に戻ったと思ったら、 一息つく間もなく、次の2軒分を抱えて 店を飛び出す、 そんな慌ただしい状況が何時間も続きました。 ようやく注文が落ち着いて来たところで、 その事件は起きました。

少し注文が落ち着き始めたことが、 かえって油断を生んだのかもしれません。 雪で滑りやすくなっていた交差点で 対向車を避けようとして急ブレーキをかけ、 バイクを転倒させてしまったのです。

幸い相手はありませんでした。 完全なる自爆です。

しかし、店のバイクは買ったばかりの新車でした。 HONDAのキャノピーという、屋根付き原付です。

ミラーは割れてひん曲がり、カウルも割れて、 傷だらけになりました。

バイクを起こして、走れる状態かどうかを 確認しました。何とか走れそうでした。

バイクの後ろの箱には、 店の常連さんに届けるはずの、 特上握り8人前が、2桶に分けて 積んでありました。 桶の中のお寿司達は、転倒した時の衝撃で 見るも無惨にシャッフルされ、 どうがんばっても、修復しようのない状態に なっていました。

当時は携帯電話などありません。 傷だらけになったバイクを無理矢理走らせ、 最寄りの公衆電話に向かいました。

 

若旦那の意外な反応

寒さと、やらかした事の重大さに震える手で、 公衆電話の硬貨投入口に10円玉を入れ、 受話器をとりました。

電話番 「はい、千成鮨です」

私   「あの、高瀬です。若旦那に代わってもらえますか」

電話番 「今忙しいと思うけど、何?」

私   「事故しちゃいました」

若旦那 「もしもし」

私   「すみません。事故してしまいました。相手はありませんが、、、お寿司を台無しにしてしまいました。バイクも壊してしまいました。本当にすみません、、、」

どんな厳しいお叱りも覚悟していました。 しかし、若旦那からかえってきた言葉は、

 

若旦那 「そんなことどっちでもいいけど、  高瀬君の体は大丈夫なのか?」 

 

涙がとまりませんでした。

泣きながら、電話に向かって 頭を下げるしかありませんでした。

 

償いと限定解除

私にできる唯一の償いは、 ひたすらバイト時間外も最後まで お手伝いをすることしかありませんでした。

もう、何時から何時まで働いて、 時給がいくらで、いくらもらえるかなんて 関係ありませんでした。

ただただ、若旦那のご恩に報いたい。 できる最大限の償いをしたい。 その一心で働きました。 そんな時、私に向かって若旦那が聞いたのです。

若旦那 「高瀬君、なんでバイトしてんの?」

私   「あの、バイク買おうと思ってます」

若旦那 「だったら大型免許とって、大型乗ったほうがいいよ。カッコいいし、何より自分の技術が下手だって、分かるから」

私   「大型!限定解除ですか!」

401cc以上のバイクを大型バイクといいます。 大型バイクに乗るには、大型免許がいります。 大型免許は限定解除と呼ばれていて、 当時は教習所では取得できず、試験場での 厳しい試験に合格しなければ取得できない、 バイク乗りにとっては、あこがれの免許でした。

自分の原付バイクすら持っていなかった 私にとって、大型免許や、大型バイクなど 雲の上の世界だと思っていました。

しかし不思議なもので、若旦那の言葉 を聞いてからは、 街行くバイクは、大型ばかりが目につく ようになりました。 配達の行き帰りは、限定解除マニュアル本に 忠実に運転しました。 バイクは50ccのスーパーカブでも、 気分は限定解除、大型ビッグバイクでした。

そんなこんなで覚悟を決めて望んだ、 品川の鮫洲試験場での大型免許試験。 結果は、一発合格でした。 嬉しくて嬉しくて、真っ先に若旦那に 報告にいきました。

 

日本一美味しいお寿司屋さん

免許取得後、はじめてのバイトの日。 いつものように店の掃除が終わるまで 働いてから帰ろうとすると、 若旦那が言いました。

若旦那 「高瀬君、ちょっと店の中で待ってて」

何事だろうと思いながらも、 言われた通りに待っていると、 店の前で軽くエンジンを吹かす バイクの音がしました。

外に出てみると、ちょうど、 若旦那が自分の750ccのバイクを 店の前に持って来たところでした。 そして、私に向かってこう言ったのです。

若旦那 「好みのバイクじゃないかもしれないけど、 俺のでよかったら、乗って。ただ、俺があげたバイクで事故ったら、ご両親に申し訳が立たないから、無茶な運転はしないでね。  あと、名義変更とかにかかる費用は自分で出して」

 

あれから20年以上たった今も、 お寿司を食べるたびに、千成鮨を思い出します。

未だにあの頃のご恩返しができていませんが、 千成鮨の味は、一生忘れません。

執筆:大愚元勝

 

 

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